背中で振り向かずとも身の危険を感じたことはありますか?
正確には振り向くことができなかった。
路地の奥、それは偶然
京都は四条烏丸のすぐそば。口では説明の難しい路地にその店はあった。
向かいが美味しい焼き鳥屋さんで本来は焼き鳥を食べるはずだったのだが、満席だったので向かいのバーに入ることにした。
そこは、一度行ったことがあるものの酔いつぶれてほぼ記憶にはなかったが、その店に置いてある木靴を履いてふざけていた写真だけがスマホに残ってはいた。
適度に暗く。適度に静か。
L字にカウンターがあり、数席ほど壁に向かって座る席があり、周りの状況を確認するには振り向いてあれやこれや見なければい
けなかった。
もちろん注文をするのにも振り向かなければいけない。そうこのときはまだ振り向けたのだ。
いらっしゃ~い。
こう書いてしまえば何ら変哲の無いあいさつ。
しかし、僕と他2名は一瞬で悟った。
「こいつは男が好きだ。間違いない。」
しかし顔は男らしく、筋骨隆々。
だけどなぜかしなびやか。くねっと感上々。
確信が持てないまま彼はやって来た。いや、もはや彼はヤッてきた。
「初動の迷いのない良い動きですね。自身の表れです。」空手の解説さながらに彼のアクションは完ぺきだった。
ただ一つ何かが間違っているとしたら、僕が選ばれてしまったことだ。
夢なら覚めてくれ!
耳に息を吹きかけられました。くすぐったかったです。
他2名、唾をのむ音が聞こえてきそうなぐらい引いています。
なかったことにしました。
あおるようにビールを飲み干しました。
2杯目を頼みました。
シャツのボタンの隙間から手が入ってきました。何の躊躇もなく迷うことなく乳首を撫で彼は去っていきました。
「いいカラダしてるじゃない」という余計な一言を残して。
もう振り向くことはできない。
背中で感じる恐怖。振り向けば奴がいる。
彼は、激しく切っていったのです。丸い刃はなお痛いのだから。
ここをのり超えるかどうかで、人生の楽しみ方が変わってくるのだが若かりし僕には経験値が足りず
少しもぼーっとしながら夜空を見つめて帰った。
Text:福田管