キブン

僕の上司その3-酔いどれ譚十七杯目


これは前の記事の続きです

そうです。またまた飲んだらとんでもないことをするあの上司のお話。今日が最後です。もう少し我慢してお付き合いくださいませ。

その上司が入社してまだ5年もたたない頃の話である。彼には2歳下の後輩がいた。
その時から上司には愛すべき酒癖の悪さが健在していた。そして、その後輩らを引き連れて夜な夜な飲み歩いていた。
そんな中での、ある日の飲み会である。
難解な案件がひと段落したのか、いつも以上のピッチでジョッキやグラスは空いていく。

上司は極めてご機嫌である

そう、このご機嫌が怖いのである。
この人の場合、ちょっとくらい体調悪くて大人しいほうが良い。いつものように後輩と他愛ない冗談を言い合う上司。後輩側も良い具合に酒がまわり、とても楽しそうである。
場の盛り上がりもひと段落したところで、事件は起こる。
酒を少し飲み過ぎて眠りかけていた後輩に、
「起きろー」と叫んだかと思うと間髪いれず、テーブルにあった居酒屋香辛料のレギュラー格である“一味”を振りかけたのである。なんと”耳の穴”に!
何事にもやり過ぎというモノやコトは存在する。これは当然やり過ぎである。
半分寝かけていた後輩も一瞬何事かわからなかったが、耳の痛みと周りの空気感で、今起きた一連の流れを整理する。
次の日、耳の痛みをこらえ出社した後輩は、続く痛みと不安に耐えきれず、午後休をとり、耳鼻科に行った。
コトの重大さに気づいた上司は、会社が終わるとすぐに、その後輩の家に謝罪に出向いた。社会人として当然の行為である。
インターフォンを押すと、後輩と後輩の父親が出てきた。
まさか父親が出てくると思っていなかった上司は狼狽し、「このたびは、本当に申し訳ございませんでした」と詫びた。コトがコトである、父親から厳しい叱責の言葉も覚悟していたが、その言葉は予想外であった。
「面白い先輩がいるなーと思てたんや。いつもありがとうな。もう気にせんでいいから、またコイツと一緒に飲んだってなー」
たぶん、この状況における父親が発する言葉として、最高峰だと思う。少なくとも僕はこんな返し方はできない。「二度とこんなことしないようにしてね」などと、センスのない言葉を掛けてしまうだろう。
父親の言葉は本当に素晴らしく、さらっと嫌味なく先輩を諭し、自分の子がこの一件から会社で孤立しないようにフォローしている。事実今もこの2人は仲が良く、よく飲みに行っている。パーフェクトである。
そして、年月は過ぎ、惜しくもその父親は最近亡くなってしまった。
訃報を聞いた先輩は誰よりも早く仕事を片付けて、通夜に向かい、普段見せることのない涙を流した。
酒は時々涙も一緒に連れてくる。
“column:しょる”

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