キブン

相席の楽しみとおっさんの下心の割合-酔いどれ譚十六杯目


酒を飲みに出かけると、まったく知らない人とテーブルを囲むことがある。「相席になってもいいですか」。この間も仲の良い友人と3人で立ち飲みに行ったところ、店員さんからそのように声をかけられた。立ち飲みでは珍しいことでもないし、それ以前に知らない人と一緒に飲むことにはなんの抵抗もない。むしろ相席を望んでいる自分もいる。
笑いのツボがわかっている友人同士の飲み会ではなく、笑いのツボを探り合う初めましての人との飲み会は、会話が弾んだりしぼんだりするのが刺激的で楽しいのだ。20代前半の頃にはまったくわからなかったけれど、30歳を超えたあたりから、酒場で話しかけてくるおっさんの気持ちが理解できるようになった。今では自分たちが話しかける側になっている。では、おっさん達は話しかける時にどんなことを考えているのか。僕たちおっさんはこんなことを考えている。

とにかく話しかけるよおっさんは

飲み屋にくるおっさんは、とにかくよく喋る人が多いように思う。ひとりで居酒屋にやってきて、近くの人に話しかけ、がははと笑って話し散らかし、ぷはーといって飲み散らかす。とにかく色々と散らかしている。
個室ではない酒場によく行く人は、話しかけられた経験も多いのではないだろうか。僕が20代の頃、繁華街で飲んでいると必ずと言っていいほどおっさんから話しかけられた。すごく楽しかったので、嫌な思いはしなかったけれど、あまりに話掛けられるので「酒場で若者に話かけるおっさんの会」みたいなものがあるのかもしれない、と友人たちと盛り上がったほどだ。
そんな僕たちも30歳の誕生日に「酒場で若者に話しかけるおっさんの会」からオファーが届き入会した。今ではノルマ達成のために、飲みに行くたびにせっせと若い人に話しかけている。※「酒場で若者に話しかけるおっさんの会」はフィクションです。
といっても話しかけるのは若い人だけではない。その辺にいる人というのが正しい。とりあえず近くにいる人に話かけ、酒の席を大いに楽しむ。話題は尽きない、尽きたら酒がうまくなくなるからとりあえず話す。酒が飲めれば話すネタはなんでもいい。同じ世代とは、あの時この音楽聞いていたよね「乾杯」と言って飲み、下の世代とは、高校時代にそんなの聴いてたんだジェネレーションギャップ感じるわー、「乾杯」と言って飲む。
相手が年下だとわかるとおごることも多いので、おそらく飲んだ相手もそこまで嫌な印象はないだろう。

話しかける時のテンション

おっさんは、哺乳綱霊長目(サル目)ヒト科ヒト亜科オッサン族に属する。男性の90%が、30歳を超えたあたりからヒト族からオッサン族に変化する。ただ、元はヒトなので、喜怒哀楽、好き嫌いなどちゃんと感情はある。それゆえ、酒場で話しかける時は相手によってテンションが上がる時もあれば、下がる時もある。どちらにしても話しかけるくせに、相手によって気持ちの上下があるなんて勝手なものである。
おっさん同士だと、終始「がはは」と笑いあう。何が面白いのかは、わからない。たまにちゃんと聞いていないけれど笑う時もある。そんな時は、だいたい相手も「こいつわかってねーな」と感づいているが、それでも笑う。とにかく平和なのだけれど、どちらも「酒場で若者に話しかけるおっさんの会」に所属しているので、会員同士の飲み会なのでテンションはそこまで上がらない。
若い男性グループの時は、お笑い合戦みたいになることがある。ボケたらボケで返す。ラップのフリースタイルバトルみたいなもので、即興でウィットのあるワードが出てくると場が盛り上がる。どちらも相手を笑わそうとするので、すごく楽しい時間が過ごせる。
ではそんな僕たちが一番テンションが上がるのはどんな時か。
ここで冒頭に戻る。この間、3人で飲みに行った時の話。相席だと告げられた時点で、僕たちの気持ちは上向く。とりあえず知らない人がそこにいて、新しい刺激がそこにあるのだから。
席に通されると、そこには大学生と思われる3人の女性がいた。

このシチュエーションは天国である。

若い女性と飲む。結局、おっさん達はこれが一番楽しいのだ。
安達祐実似の子、優香似の子、フカキョン似の子。若干アルコール補正が入っているが、僕らの世代のアイドルによく似ていた気がする。
話をすると、やはり大学生だったようだ。就職も決まった4回生で、バイト仲間。就職すると京都を離れるそうで、就職するまでの時間を楽しもう、と夜な夜な飲み歩いているという。
それ以上、何を話していたか覚えていない。楽しかったのは間違いないのだけれど、そんなものである。
さて、ちょっとここで気になることがあるかもしれない。僕たちに下心はないのかと。
少しある。
人によるけれど、割合で表すと消費税よりも少ないと思う。もちろん連絡先なども聞いていないし、その後別の店には僕たちだけで行った。基本的に美味しいお酒が飲みたいのであり、美しい女性と楽しく飲むととにかく酒が美味い。コンビニのワインがシャトーマルゴーになり、ワンカップ大関は北雪大吟醸になる。
もちろん彼女たちのお会計も僕らで済ます。さも当然という顔をしているが完全に見栄である。数日間は昼ご飯が貧相なものになるのは覚悟の上だ。「ありがとうございます」のそのひと言にはそれくらいの価値がある。
つまり、話しかけてくるおっさん達に下心はほとんど無いと思ってくれて良い。その上、大学生だと奢ってもらえることがあるので、おいしいことばかり。経験値の高い大人の女性はこのことがわかっているので、おっさんとの付き合い方がうまい。
おっさん達はオッサン族に属しているので狼などにはならない。もしおっさん達に話しかけられたら、カモだと思ってくれてよい。ただその味を覚えるとお水の世界に足を踏み入れる可能性があるので、ほどほどに楽しんで頂きたい。
“column:小林茶ノ目”

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