キブン

カシオレをオーダーする男-酔いどれ譚 十三杯目

成人式を終えた二十歳の新成人たちは、お酒を飲めるようになる。始めの頃なんて、ペアリングやマリアージュなんて意味もわからず、色々なお酒を好きなように飲む。その結果、吐き、寝て、人に迷惑をかけ成長し飲み方を覚える。だいたい30歳を超えるまでに、自分の限界を知り、食との飲み合わせを知るようになる。

上品な居酒屋で忘年会

30歳を超えるまで、と書いたけれども、もちろん例外はある。昨年の忘年会のこと。中学時代の友人達と毎年恒例の宴会を楽しむことになった。場所は丸太町にある木造の落ち着いた居酒屋さん。上がり框から部屋へのびる廊下には暖簾があり、それをくぐると5メートルほどある木製カウンターが出迎えてくれる。カウンターは常連さんと思しき人たちで埋まっており、私たちはその奥にある離れのような座敷に通された。間接照明の柔らかな光と、ライトアップされた大きなガラス窓から見える坪庭に、高級料亭にきたかのような錯覚を覚えた。

接客も丁寧で、お通しですら簡単な説明を加えてサーブしてくれる。そんな上質な空間ゆえ、スタンバイされた酒にもこだわりがあるのだろう。日本酒やウイスキーなど、種類少なめながら、高級酒もスタンバイ。おそらく常連だけにだす酒も用意されているはずだ。こんなところに1人できて「いつもの」なんてオーダーをしてみたいものだ。

数人が遅れてくるものの、予定時刻になったので飲み会をスタート。一杯目はみんなビール。最初に出きた料理はサラダやおばんざいなど、喉越しを楽しみながら飲むビールとの相性も抜群だ。みんな一杯目のビールはすぐに飲み干し、2杯目のオーダーをするためスタッフさんを呼ぶことに。

時間を止める能力を持つ友人

「日本酒冷やで」「もういっぱいビール」と次々にオーダーしていく。次にオーダーするのが、普段営業と商品配達をしているMだった。じっくり考える彼は、次の料理のことを考えているように見えた。揚げ物がきて、そして鍋へと流れていくだろう、じゃあそれに合う酒は。などと頭を使っているのかもしれない。彼はオーダーした。

「カシオレで」

時間が止まった。ように私は感じた。彼はこの場面でカシスオレンジと呼ばれるカクテルを注文した。それは、甘いカシスリキュールと爽やかな酸味のあるオレンジジュールを混ぜたもので、誰でも知っている有名なカクテルベスト3に入るほど人気のカクテルに違いなかった。ここからの言葉は、若干の偏見が入っているため、読まれる際は多少の寛大さをもって頂きたい。

30歳を超えた人が、カシスオレンジを頼んで良いシチュエーションというものが、私たちの飲み会ではなんとなく存在する。以下、カシスオレンジを飲んで良い状況や人を私なりにまとめてみた。

1.女性。

女性は誰であっても、どんな状況でもカシスオレンジを頼むことを許されている。

2.20歳を超えてすぐの人

ハタチを超えて飲み方の経験値を上げている人は誰であっても、どんな状況でもカシスオレンジを頼むことを許されている。

3.ご飯も食べ終わって、締めに向かう前のバーで。

店の雰囲気にもよるけれど、この状況だとカシスオレンジのオーダーは許されている。

以上である。これ以外で飲むことは「かっこ悪い」と考えている。

では、Mの状況に戻りたい。まず1軒目であること。食事重視の上品な居酒屋で、2杯目の注文時。これから揚げ物や鍋を食べる予定。もちろん個人の趣味趣向には口を挟める余地もないし、そんな資格すらない。そんなことはわかった上で、言いたい。

「なんでやねん」と。

ダウンタウンの浜ちゃんが、ちょっと呆れた時にぼそっと言う感じで「なんでやねん」と。

そこで、気づいたことがある。Mは酒での失敗をそんなにしていなかった。飲んで吐いたり、道路で寝たり、財布を落としたり、などなど。それ以外のメンバーからは良く酒の席での失敗談を聞いていた。でも、Mからはなかった。

もしかしたら、失敗をしてこなかったから、学ぶこともなかったのかもしれない。「好きな時に好きなものを飲んで何が悪い」そう思っているのかもしれない。この雰囲気だとこれを飲むと絵になる、この食事とこの酒を合わせると、美味しく食べられるなど、酒を楽しむような飲み方は、あれこれ若い時に失敗し学んだからこそ知ることができるのかもしれない。ただ酒を飲むのではなく、食と合わせ、雰囲気も味わい、年齢に関係のないコミュニケーションを楽しめるようになるには、若い時の失敗が必要なのかもしれない。

“column:小林 茶ノ目”

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