
書は建仁寺 禅居庵 上松正明 住職のもの。
年の瀬になり、大きなイベントも残すところクリスマスだけ。街で繰り広げられているプレゼント商戦を眺めつつ、相方に何を贈れば良いか、ふと考える。顔も性格もわかっている相手に贈るものを考えるのは、それはそれで難しいものである。しかし、7年ほど前は顔も知らない相手に贈りものをするのがブームになっていた。
2010年のクリスマス。前橋市の児童相談所に届けられた10個のランドセル。送り主は、漫画「タイガーマスク」の主人公、伊達直人。添えられたメッセージから、善意の贈りものであることがわかると、これを真似た行為が全国に広まり、一連の活動は「タイガーマスク運動」と呼ばれた。活動の発端となった人物は、後に特定され、毎日新聞のインタビューに匿名で応えている。
「生まれてきてごめんなさい」
送り主に両親はおらず、親戚の間を移り住む生活をしていたという。「お前がいるから家庭がぎくしゃくする」と、言われ「生まれてきてごめんなさい」と謝罪をしていたそうだ。上京後就職すると、自分と同じ境遇の子どもの力になりたいと、寄付を始める。この時に児童福祉施設入所前の「一時保護所」にいる子ども達は、学校にもいけないというのを知ったことからランドセル運動を始めたのだとか。
一時加熱していた運動も、一過性のもので翌年にはもう落ち着いていた。発端となった人物は今でも活動を続けており、今年2016年タイガーマスク35周年イベントに、初めて実名で表舞台に登場した。河村正剛さん43歳。群馬県の会社員。イベントでは「顔が見える方が子どもの励みになり、支援しているのが、ヒーローではなく、私のような普通の人だということを知ってほしい」と語ったそう。
過去のトラウマになりそうな体験が、活動を始めそして、続ける動力になっているだろう。しかし、そこにはもうひとつ、主体性が必要だと思う。どこかの団体に所属するのではなく、小さくても自分でできることをずっと続ける。大きなことはできないが、積み重ねた活動は一度の大きなものにも匹敵するはずだ。
縁があって参加した、臨済宗の座禅体験で住職がこんなことを言っておられた。「自由とは自らを由りどころとすることである」。他人に期待するのではなく、自分を信じることが、主体性を作るのだという。他人に期待することなく活動を続けてきた河村さんは、間違いなく自由な人だろう。
ちなみに12月8日はお釈迦様が悟りを開かれた日だそう。悟りを開くのは無理かもしれないが、やろうと思っていたことを、他人に期待せず始めてみるのもいいかもしれない。自由は意外と近くにある。
“Column:小林茶ノ目”