キブン

酒場での出会い:酔いどれ譚四杯目

yoidore03

酒場での出会い

標題を見て、男女の馴れ初めの話だと期待して本文を読み始めた方はこれ以上読まないでください。期待を確実に裏切ります。

それは、僕がまだ社会人1、2年目だった頃。

中学時代の友人(今も遊び飲み仲間)数人と、河原町の裏寺町にある大衆酒場「静」で飲んでいた。この店は観光客がまず歩かない裏通りにある老舗居酒屋で、壁は学生の落書きだらけ(ある意味芸術的)、何故か壁にはフォークギターがかかっていたり(たぶん、酔っ払ったおっさんが爪弾く用)、とにかくパンチが効いている。

ただ、料理の味は確かであり、何を食べてもうまいし、酒にあうものばかりで、かつ財布に優しい。中でも里芋の煮物は個人的に最高の味で、たまに瓶ビールと芋煮で、会社帰りに一杯やりたくなるくらいである。

そんないつもの店で、いつもの仲間と会社帰りにわいわいやっている時である。小上がりのドアが突然開いた。

そこには作務衣に下駄といった出立ちの中年男性がおり、のそのそと席に入ってきた。

彼は「一緒にいいですか?」と言いながら、間髪入れずに焼酎をボトルで入れた。

「京都の人と飲みたかったんですよ」と言ったかと思えば、自分が信州のちょっと有名な水墨画家であることをアピールし始めた。

おいおい、胡散臭さ抜群のおっさんである。

その後、何故か三島由紀夫の話、自らがバイセクシャルであることをカミングアウトする等わけのわからない酒場談義の後、「もう一軒行きましょう」と彼は我々を誘い出した。

こうして、次の店に向かう途中、年頃の女性を見ると、なんと片っ端から一人でナンパを始めた

しかもその誘い文句が最強なのである。




「スケッチしていいですか?」

突然わけのわからん作務衣のおっさんに、こんなこと言われた女性はドン引きからの無視である。

そんなこんなでナンパを失敗し続けて辿り着いた店は、名高い先斗町の路地を少し入ったカウンターだけの小料理屋、学生上がりたてのサラリーマンには到底入れない店である。

「知っている店ですか?」

とおっさんに聞くと

「知らない。」

ときっぱり言った。

そこで2品ほど注文し、酒を一杯のんだところで「お会計」と言った。

時間にして約20分である。

「路地ほど良い店があるんだよね」

と言いながら、また違う路地に入り、渋めの

ショットバーに入った。

そこで、彼は紙ナプキンの下に氷を置き、その膨らみを、なぞるように持っていたペンを走らせ、隣の女性に突然問い出した。

「何を書いているかわかりますか?」

女性は首を横に振った。

「乳房ですよ」

「…」

その店でまた一杯飲んで、また違う店に入り、また一杯だけ飲んでお開きとなった。

彼は、「今日はありがとうございました、楽しかった。」と言って風のように去って行った。

人生において時々わけのわからない時間が流れ、わけのわからない登場人物が現れるときがある。それは紛れもなく「出会い」である。こうした「出会い」は10年以上経った今でもよく覚えているし、この時経験した事が後々自分の糧となって残っていくも時もある。

例えば「路地ほど良い店がある」、「一杯だけ飲んで初めての店を練り歩く」など。

これらに関しては、今僕が酒を飲むにあたっての骨子となっている。

思い返せば、この作務衣のおっさんとの出会いはとってもスペシャルだった。

酒場にはそんな出会いが溢れているし、だからと言ってはなんだけど、若い人には無駄酒となんか言わず、やっぱり出来るだけ飲み歩いて、色んな人と出会ってほしいと思う。

その方が人生の経験値は格段に上がると思う。

ただ、間違っても「スケッチしていいですか」と言って女性をナンパしない方が良いし、乳房をカウンターで書くような真似はしない方が良いと思うのである。

“column:しょる”




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