暴君ボイラーメーカー
大学生の頃の僕たちにはボイラーメーカーという暴君が君臨していた。
そいつはカクテルグラスにビールと、ショットグラスにバーボンという出で立ちでやってくる。
このときはまだ優しい顔をしているのだけど、
ショットグラスをビールの入ったカクテルグラスにポトンと落とし、二つの液体がまじりあい、ちょうど琥珀色になったころ、
そいつは暴君へと変貌する。
大学生のころ住まいの近所にある300円均一のバーを友人とよく利用していた。と、言うよりはほぼそこしか行っていない。
そこでひと際、猛威を振るっていたのが「ボイラーメーカー」だった。
何より300円均一の店で唯一500円という値を張り続けるそのプライドがもうものすごい。
ちょっと仲良くなったバーテンがバーボンのブラントンをグラス波々に入れてきてくれたのは、学生ながらに理解できなかったが(その価値が分かった今ではもっと理解できない)、そいつだって300円だった。なのにその暴君は500円で、その価格通りの破壊力を見せつけていた。
普段はとっても穏やかな友人Sはボイラーメーカーを必要以上に好み、割り勘負けする僕たちの厳しい目を気にせずひたすらそれをあおり続けた。
暴君は彼にすっと乗り移り、普段はとっても穏やかな彼を帰り道、街中のありとあらゆる看板をけり倒す暴君へと変貌させた。彼の通った後の道は台風一過のようだった。
そんな暴君は、その店オリジナルのカクテルだと思っていたのだけれど、ちゃんと調べてみると実際にあるんですね「ボイラーメーカー」って。
アメリカの発電施設に従事していた作業員が酔っぱらうために、飲みかけの缶ビールの中にバーボンを入れたのが起因とされたり、飲むとボイラーのように体が熱くなるからと言われたり、韓国では「爆弾酒」と呼ばれている。ウイスキーをテキーラに変えると「サブマリノ」という潜水艦という意味の名前に変わり、それは、ピニャコラーダとチチの関係性に似ている。
お酒、特にカクテルの名前にはそれぞれに意味があって、例えば、「XYZ」は「これ以上ない最高のカクテル」というのをアルファベットの最後の3文字で表現したといわれている。美味しいか美味しくないかで判断していた若いころに比べ、じっくり飲むことができるようになった今、その名前の由来を考えながら飲むのも楽しさひとしおかもしれない。
“Column:福田管(Fukuda-kuda)”