岩井俊二監督の「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」という映画がありましたが、ふと電車も上や横からはよく見るけれど、下から見ることってほぼないな、と思い動く電車を下から見れられる場所を探してみました。
写真ですら動く電車を真下から写したものがない
ネットで画像検索しても、動く電車を真下から撮った写真は見つからない。整備しているところならいくつかありましたが、動く電車を下から撮っているのは、ちょっと外れた場所から電車の前や横を見上げる形で捉えたものがほとんど。動画でやっと見つけたと思ったら、やっぱりちょっと横からなんです。仕方がないので、私がやってやろうと。仕方がないからであって、断じて仕事がないからではない。それはもう衝動です。この世の中にまだなさそうなものがあるなら撮ってみたいという、それだけです。気持ちは「午前二時踏切に望遠鏡をかついでった。ベルトに結んだラジオ、雨は降らないらしい」のパンチラインで文系男子の心を鷲掴みにした「天体観測」に登場する少年少女たちのワクワクする気持ちとほぼ同じです。
まず、場所探し。これはもう簡単です。基本的には電車が川を渡っていれば、もうそこです。京都だと、京都駅から出ている東海道本線が鴨川の上を通過するので、その瞬間を捉えられるはず。
ここです。これはいけそうな予感。夕方だったため若干暗いのが気になります。さて、下から覗いてみると。
真下ですね。いい感じです。ISO感度を上げて、シャッタースピードをとりあえず1/200sに設定して待ち構えます。遠くから電車の音が聞こえてきます。橋も軽く振動しているように感じます。と、次の瞬間。
ほらほら、これですよ、これ。ネットで検索してもなかなか出てこない「動く電車を真下から画像」。今、まさに目の前を通過中。ネット史に刻まれた新たな1ページ。興奮しつつ何度もシャッターを切りましたよ。
そして、後で見て見るとこれです。真っ暗。なんどか設定を変えて試したのですが、真っ暗なまま。三脚も持ってきていなかったので、シャッタースピードは1/50sが限界。でも真っ暗。ネット史に刻まれた新たな1ページは真っ暗ですよ。そりゃね、誰も撮影しないわけですよ。なにがなんだかわからないのですから。ちなみに角度を変えて明るく補正した写真がこれ。
ちょっと荒すぎて、しかもシャッタースピードが遅く電車の裏側なのかどうかまったくわからない。ネット史に刻まれた2ページ目はブレていて何かわからない。天体観測の少年少女の気持ちだったものが、一気に返済勧告された中年モードですよ。
ブルータスお前もか
期待とはまったく違う結果になり、近くの河川敷でぼーっと座っていると。目の前に、落ち込んだ私のごとく動かない鳥が一匹。
そういえばこの子、電車の写真を撮る前からここにいたんですよ。
こんな感じで。ほとんど動いてないんですよ。かれこれ撮影している20分ほど。もしかしたら、「我が生涯に一片の悔い無し」のラオウのように立ったまま朽ち果ててるのかと思うくらい。でも、座ってから5分ほどしたら、動き出したんです。
何かを見つけたようなので、彼の先を見てみると。
もしかすると雌かな。好みの女性なのかもしれない。対岸のご家族もそれに気づいたようです。鴨川で鳥のカップルが誕生する瞬間が見られるかもしれない、そんな期待に胸を膨らませ、眺めていると。ちょっとずつ二羽の距離が縮まります。
いい感じです。あとちょっとです。
テンションが上がってしまい少しぶれています。すみません。彼の歩みが止まり、彼女が近づいてきました。あと少しで何かが生まれるかもしれない。そんな期待で気持ちはさらに高まっています。それはおそらく川の中で1時間ほど立ちぱなしだった彼も同じはず。と、次の瞬間。
おおっ。お、お。見つめる彼。恥ずかしそうにうつむく彼女。
あれ。見つめる彼を完全に無視。清々しいくらいにスルーですよ。もうね、彼も後を追う気がないですね。すぐに悟ったんでしょうね。この恋は終わったと。いや、始まってもいなかったと。何やってんだ俺は。恥ずかしさからでしょうか。彼、この後私が帰るまでずっとこのポーズですよ。
「いや、色気付いたわけじゃないし。ちょっと動きたかっただけだし」とでも言っているように、まったく彼女の後を追いかけません。
期待しすぎると、ショックを受けるのは鳥も人間も一緒なのかも、とそんなことを考えながら見上げた空は意外と綺麗でした。今度は三脚を持ってリベンジしてみます。よければ、一度訪れてみてください。いきなり頭上を通る電車にドキドキできるのと、もしかしたら失恋しオブジェと化した鳥に会えるかもしれませんよ。まだいるようでしたら、編集部に連絡してください。マスコットキャラクターにして、彼の嫁を必死で探します。
京都で真下から電車が見られる、かつ失恋した鳥に会えるかもしれないスポット
場所:塩小路通川端
“Text,Photo:中川 直幸”