全国各地に残る鬼退治の伝説。もちろん京都にも伝説は残っている。有名なのは大江山の三鬼伝説。西暦500年末、用明天皇の頃。英胡(エイコ)・軽足(カルアシ)、土熊(ツチグマ)の三鬼を首領とする鬼たちが街を荒らしていたそう。英胡と軽足は退治したけれど、逃げた土熊は丹後まで追い詰め、立岩に閉じ込めたのだとか。風の強い日に立岩に近づくと、まるで鬼が泣いているような音が聞こえるという。
京都の荒々しい絶景
宮津から海岸沿いをくねくねと車で進むこと一時間ほど。見飽きたはずの海の風景に、威容の大岩が姿をあらわす。日本海へと注ぐ竹野川の河口付近、後ケ浜海岸から浜続きにそびえ立つ「立岩」は、高さおよそ30メートルで、岩の周囲は1キロメートルほどもあるそう。岩自体の荒々しさと、山陰の海の荒々しさが相まって、関西の絶景の中でも迫力は最大級。にも関わらず、アクセスもしやすく、無料の駐車場もあるので、手軽に週末旅を楽しむにはもってこい。
また、岩以外にも大時化の海や、竹野川にかかる橋など、写真映えするようなスポットもちらほらあり、写真好きの間でも人気が高い。
鬼退治の伝説と鬼の鳴き声のように聞こえる風が神秘的
訪れたのは11月中頃。この日は風も強く、「立岩」に近づくと大きな波が足元を濡らすほど海も荒れていた。そんな荒々しい自然の絶景を求めて、多くの人が足を運ぶけれど、ここの楽しみ方はそれだけではない。近くの「竹野神社」に残る「紙本著色大明神縁起」という書物の中に、鬼退治の物語がおさめられている。その最後の舞台がこの「立岩」といわれているのだとか。
簡単に伝説を説明するとこんな感じ。
およそ1400年前、大江山に3匹の鬼がいたそう。妖術を使い、町や村を荒らしまわっていた鬼を、麿子親王が退治に向かったという。神犬や神馬を従え、鬼と激しく戦った結果、二匹を退治。逃げた1匹はこの場所に追い詰め、七仏薬師の加護で天から大岩を落下させて閉じ込めたのだとか。
その鬼の泣く声が、近くづくと聞こえるという。たしかに岩肌にぶつかるように吹く風は、ゴーゴーという音がして、鬼の鳴き声に聞こえなくもなかった。地元では、子どもたちが時化った海に近づかないように、鬼の伝説を使って、岩に近寄らせないようにしていたそう。「立岩」には鬼の魂を沈めるために建てられた祠があり、拝みにくる地元の人もいるそう。
目だけで楽しむのではなく、耳でも魅力を感じることができる「立岩」。冬になれば時化った海と、激しく舞う雪が、ここをより一層迫力のある場所にしてくれるはず。波にさらわれないように、大自然と伝承が織りなす絶景を楽しもう。
立岩
神秘的な伝説を感じることができる絶景度 ★★★★★
住所:京都府京丹後市丹後町間人
“Text,Photo:中川 直幸”