ワインに限らずビンテージと呼ばれるモノは、技術や素材、または作り出す機械や商品への考え方など、その時代にしかない要素により、現代では作りようがなく、古いものほど希少価値が高くなる。
しかし、ただ古ければ良いというものでもない。生産性や効率よりも、こだわりを重視する物作りが行われていたからこそ、ビンテージにはそのカテゴリーごとに「最高傑作」と呼ばれるものが存在する。愛好家が、真に求めているのはそれに他ならない。
ワイン以外にも、ビンテージと聞いて思いつくのがジーパンだろう。日本にも多くのコレクターが存在するジーパンのビンテージ。1本数百万でやりとりされ、日々価格が高騰している。
今回紹介する「CONNERS SEWING FACTORY」の小中儀明さんは、そんなビンテージジーンズをレプリカではなく、当時のクオリティそのままの「オリジナル」で現代に作り出すという。その仕上がりを見た世界中の愛好家から予約が殺到し、バックオーダーは300本を超えているそう。世界から熱い視線を集める小中さんの、物作りと会社作りに対する考え方を聞いてみた。
Day1 : 小中流、成功をつかむ考え方
挨拶は愛想良く。父親の教えを守る、とっても気さくな金髪の革命児
金髪で鋭い眼光、大きな声。4年前、私が初めて小中さんを見た印象は「怖そうな人」だった。その時は挨拶をしたくらいで、じっくり話すのは今回の取材が初めて。そこでわかったのは、小中さんはよく話し、よく笑い、そして誰とでも楽しく接する気さくなお兄ちゃんみたいな人だということ。
彼が経営する滋賀県八日市のアメカジのセレクトショップ『FORTY NINERS(フォーティナイナーズ)』から徒歩1分ほどのところに、世界を驚かせるジーパンの制作現場『CONNERS SEWING FACTORY(コナーズソーイングファクトリー)』がある。扉を開けると、初めて会った時と同じような大きな声で、仕事中の小中さんが手を止め出迎えてくれた。
「おぉ、よく来てくれた。今日はよろしく頼むわ」
まったく知名度もないWEBマガジンを運営する私に対しても、嫌な顔ひとつせず取材に応じてくれ、気分のよい挨拶を返してくれる。そこには、小中さんが幼少期に、父親から言われたという、たったひとつの教えがあった。
「親父が挨拶だけは絶対にしろっていうねん。商売人は挨拶が命やて。ほんで、親父はそれしか言わへんかってん。ほかは他人に迷惑かけへんかったらなにしてもええ、勉強もせんでええ、好きにしろて(笑)」
「でもな儀明、社会に出たらわかるわ、そんな基本ができてへん人よーさんおる。頭良くてもそれが出来ひんかったら、商売できひんで、いうてな。教えてくれたんはそれだけやったけど、ほんまその通りやと思うわ」
「俺、あほやし、それ信じてまったく勉強せーへんかってん(笑)ほんでな、勉強せんと人を楽しませることばっかり考えててん。授業の休み時間とかな、クラス中笑わしたろとかな、ほんまそんなんばっか」
無敵っていうのは、敵がいないくらい強いんじゃなくて、敵を作らないってこと
話しを聞いていると幼少期から現在まで、小中さんの変わらない特技が見えてきた。ひとつは誰とでも仲良くすること。もうひとつは、相手を喜ばせる、相手の求めていることを自分ができる範囲でするということ。
「俺なリアクション最高やねん」
「友達の家に食べにいくやろ。そしたらな、俺めちゃめちゃ褒めるねん。料理を。すごいで。友達にな、お前こんな美味しいもん毎日食うてんのけ。てな、おばちゃんに聞こえるくらいに言うねん。そしたらな、おばちゃんテンションめちゃめちゃ上がってな、そんなん言うてくれるのよしあき君だけやわ、また食べにきてな、言うてくれんねん」
「学生の頃な、ヤンキーやったしめちゃめちゃ悪かったけど、挨拶だけは愛想ようしてたからな、近所の人からはまったく嫌な顔されへんかったわ」
「愛想よくしてたらな、周りは変な目でみーひんし、よくしてくれるねん。」
「そんなんしてたらな、小さい頃に、気づいてん。誰にでも愛想良うしてたら色んな人と繋がれるてな。俺あほやけど、かしこ(勉強ができる人)とも友達なれるし、なんか困ったらそいつに聞けばええねん。てな」
「仕事もな、愛想よう挨拶してたらな、業者の人も色々情報教えてくれる。業者だけちゃうで、市役所いっても、ひとつ聞いたら、10くらい教えてくれるねん。こういうのあるからした方がええで、とかな。金髪でこんな見た目やから、最初は変なん来たいうて構えるけど、愛想いいし、腰低いし、話しおもろいし、話し終わる頃には、仲良うなってな、その人の知識めちゃめちゃもらえんねん(笑)」
「無敵いうけどな、あれは俺より強い奴がもうおらんくらい強くなった、とはちゃうねん。敵を作らへんことやねん。全員友達やったら、変な争いもないし、助けてくれるし、ええことばかりやろ」
右手に夢を、左手にそろばんを
21年目を迎えた『FORTY NINERS』。そして、3年目の『CONNERS SEWING FACTORY』、居酒屋『ふじや。』。アパレルを中心に、飲食店も展開し、やりたいことを成功させてきた小中さんには、夢を叶えるための考え方がある。
「仕事の不安てなに? 金?」
「俺な、色んな人からな言われてきたことがあんねん。右手に夢を左手にそろばんを、てな」
「夢のことばかり語って、金の話しできひんのはあかん。金の話しばかりして、夢を語らへんのはあかん。て」
「これな、バランスの話しやねん。自分な、いまなんで立ってられんの? それ、バランスが取れてるからやろ? なんで歩けんの? バランスが取れてな進まれへんやろ」
「会社も一緒やねん。夢と金のバランスとれてな進まれへんねん」
「でもな俺が仕事してるのはな、金が目的ちゃうねん。金自体には興味ないねん。いるけどな。必要やし。金は夢を叶えるための道具やねん。車動かすのにはオイルがいるやろ、それと一緒やねん。これなかったら会社動かへんもん。人雇われへんもん。夢叶えられへんやん。そのためにまだまだ稼がなあかん」
「俺、めちゃめちゃ稼ぐで。そして、めちゃめちゃ使うねん。ええ車とかそんなんちゃうねん。会社にいてくれる人と、お世話になったこの物作りと産業をなくしたくないねん。会社てな、結局人やねん。人を、雇用を、守らなあかんやろ。この物作りの産業。これがなくなったらあかんと思ってねん。ええもん作る環境をなくしたくないねん。俺はそのために金を使うねん。だからええもん作って、めちゃめちゃ稼ぐ」
俺の「好き」と「変態な部分」は絶対負けんへん
小中さんの夢を実現するための心の持ちようはすごく刺激的だった。誰も真似できない技術で、すごいスピードで駆け抜けている。3年で世界に認められるようになった『CONNERS SEWING FACTORY』の勢いを、そのまま表しているようだ。
「正直言うとな、俺より縫製できる人なんてな、いっぱいおる。でもな、俺の好きって気持ちとな、こだわりすぎる変態な部分はな、その人らには絶対負けへん」
「俺、昔から言うてることがあんねんけどな。俺の目の前におるやつらは、俺のこの追いついてくるスピードに怯えとけ。ぶっちぎってやるから。悪いけど、俺より後にくる若いやつらは、なんもやることないで、俺が全部やり尽くすから。てな。そんな気持ちやねん」
「俺な、この工場、だれでも見に来て、ていうてんねん。同業者でもええ。隠さへんねん。見に来てくれたら、俺がバケモンやってわかるから。見れば見るほど、俺の変態さがわかるわ」
「日本とか世界中から色々言ってもらえてるけどな、俺自分のこと一番やとは思ってへんねん。思ったらそこで成長止まるしな」
物作りに対する強い信念がこもった小中さんの言葉からは、同業者を敵としてみているのではなく、ライバルとしてみていることがうかがえた。切磋琢磨し、産業を盛り上げ、好きなことを継続していく、そして、その業界を牽引していくのが、小中さんなのような人なのかもしれない。
Day2では、小中さんが作っているものや、店、仲間に対しての考えを紹介したい。
小中 儀明(こなか よしあき)
株式会社ヨークハウス代表 CONNERS SEWING FACTORY代表
Shop:FORTYNINERS(セレクトショップ)
電話:0748-23-4762
住所:滋賀県東近江市八日市本町14−25
定休日:無休 ※小中さんは水曜がお休み
HP:http://www.fortyniners.cc/
“Text,Photo:中川 直幸”